テ・ワヒポウナム

〜蝕まれる太古の森林〜


12月、温帯雨林の森に花の季節がやってきた。
フィヨルドランドペンギンたちは
無事に子育ても終え、
山の中腹で気持ち良さそうに日なたぼっこ中
ニュージーランド南島の南西部に広がる2万8000平方キロメートルもの広大な氷河地、テ・ワヒポウナム。
氷河時代を彷彿させる剣のような山々と深いU字谷、さらに奥深い入り江がつくりだす壮大な景観。
そしてテ・ワヒポウナムは、鬱蒼とした温帯雨林を形成する。
僕が訪ねたこの太古の姿をとどめる静寂の森で、フィヨルロランドペンギンは悠々と暮らしていた。


ニュージーランド南島に広がる世界遺産、
テ・ワヒポウナム。
氷河によって形成された壮大な景観は
2万8000平方キロメートルにも及ぶ

12月初め、ほとんどのペンギンが子育てを終えようとしていたころ。
海岸の岩陰で、じっと待つこと3時間半。
午前10時45分、待ちに待ったフィヨルロランドペンギンの到着だ。
黄金の髪飾りである冠羽が、波間に見えた。
すると、2羽のペンギンは大きな波に乗って、一気に玉砂利の海岸に上陸してきた。
きょろきょろとあたりに注意をはらいながら、よちよち歩きで進んでいく。
1羽は切り立った崖をのぼりだした。
さらにもう1羽は突然、川に向かって小走りを始めた。
「もしかして、ペンギンに気づかれたかな?」
と思いつつ、僕も川に向かった。
川に入ったペンギンはそのまま遡上し、やがて森の奥深くへと消えていった。
人1人がやっと通れそうなペンギン道を、腹ばいになって進み40分後。
薄暗い荘厳な森で、ペンギンは木漏れ日をじっと見つめていた。


森にはペンギンと同じように、翼が変化して飛べなくなった無防備な鳥、「タカヘ」や「カカポ」がいる。
現在、6000羽ほどまで減ってきているといわれるフィヨルドランドペンギン。
だが、タカヘ約260羽、カカポはわずか55羽が生き残っているにすぎない。
絶滅寸前。人間による破壊は、確実にこの太古の森を蝕んでいる。

ペンギンは川を遡上し、
森の中へと消えていった。
ヒナが待つ山の奥へ、
1時間もかけてのぼっていく

森の奥深くペンギン道が続く。
大木の根に深く刻まれた
ペンギンの爪跡は、
太古から生きのびてきた証

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